Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

研究成果・プレスリリースresearch

研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】硫黄の結合状態を3次元で可視化 - ミクロな材料内部の“化学状態”をナノスケールで観察 -

2026.5.27

 発表のポイント 

  • 硫黄の結合状態を3次元で可視化することに成功しました。
  • マイクロメートル厚試料でもナノスケール観察を実現しました。
  • 電池材料や高分子材料への応用が期待されます。
 

 概要 

材料観察において、硫黄のような軽元素について、結合状態(硫黄–硫黄結合や硫黄–炭素結合)とその空間分布を三次元的に評価する手法は限られていました。

東北大学 大学院工学研究科の佐々木雄平大学院生、東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センターの石黒志准教授、高橋幸生教授、住友ゴム工業株式会社の金子房恵博士(東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 特任准教授)らの研究グループは、3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(注1)のビームラインBL10Uを用い、硫黄K吸収端(注2)におけるX線タイコグラフィCTにより、約80ナノメートル(nm、1 nmは10億分の1 m)の分解能で、マイクロメートル(μm、1 μmは100万分の1 m)厚の高分子材料内部における硫黄の化学状態を三次元で可視化することに成功しました。

本研究では、4つの異なるX線エネルギーで高分解能X線タイコグラフィ(注3)測定を行うことで、電子密度および硫黄濃度に加え、硫黄–硫黄結合および硫黄–炭素結合に対応する指標を三次元的に再構成しました。その結果、試料内部において、球状領域では硫黄–硫黄結合が多く、非球状領域では炭素や酸素成分および硫黄–炭素結合が相対的に多いという、化学状態の空間的不均一性を明らかにしました。

本手法は、軽元素材料における構造と化学状態を解析する新しい手法として、電池材料や高分子材料などの機能発現メカニズムの解明に貢献することが期待されます。本研究成果は、2026年5月16日付で科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

 

 詳細な説明 

  • 研究の背景
 材料の機能は、その内部構造だけでなく化学状態にも強く依存するため、これらをナノスケールで三次元的に可視化することが重要です。特に硫黄は、電池材料や高分子材料、生体組織などにおいて重要な役割を果たす元素であり、その結合状態(硫黄–硫黄結合や硫黄–炭素結合)と空間分布の把握が求められています。しかしながら、マイクロメートル厚の軽元素試料内部における化学状態を三次元で可視化することは困難とされてきました。
 
  • 今回の取り組み
 本研究では、NanoTerasuのビームラインBL10Uにおいて、硫黄K吸収端近傍の4つのX線エネルギーを用いたX線タイコグラフィ-計算機断層撮影(注4)を実施しました(図1)。本手法では、複数のエネルギーで取得した回折データから、電子密度および硫黄濃度に加え、硫黄–硫黄結合および硫黄–炭素結合に対応するスペクトル指標を三次元的に再構成することが可能です。測定には、高コヒーレンスな放射光と全反射型集光光学系、およびテンダーX線領域に対応した高感度・高速検出器CITIUSを組み合わせることで、約80 ナノメートルの空間分解能での三次元イメージングを実現しました。硫黄が含まれる高分子材料に適用した結果、試料内部において顕著な化学状態の空間的不均一性が観察されました(図2)。具体的には、球状の領域では硫黄–硫黄結合が多く、一方で非球状の領域では炭素や酸素成分および硫黄–炭素結合が相対的に多いことが明らかとなりました。
 
  • 今後の展開
 本研究で開発した手法は、軽元素材料における構造と化学状態の三次元相関をナノスケールで解析する新しい手段を提供します。これにより、電池材料や高分子材料、触媒などにおける機能発現メカニズムの解明が進むことが期待されます。今後は、より高分解能化や測定精度の向上に加え、多元素系材料や複雑系への応用を進めることで、材料開発の高度化に貢献していきます。また、将来的には時間分解測定との融合により、材料内部で進行する反応や構造変化を三次元で追跡する手法への展開も期待されます。
 
図1.硫黄K吸収端近傍におけるX線タイコグラフィCT測定の模式図
 
 
図2.硫黄が含まれる高分子材料粒子の断面像。電子密度、硫黄濃度、ならびに硫黄–炭素結合および硫黄–硫黄結合の硫黄の量に対応する指標の分布を示す。粒子内部には、組成や化学状態に顕著な不均一性が存在することが分かる。
(a) 電子密度の分布  (b) 硫黄濃度の分布  (c) 硫黄以外の成分量の分布  (d) 硫黄–炭素結合の硫黄量に対応する分布  (e) 硫黄–硫黄結合の硫黄量に対応する分布。
 
 

 謝辞 

 本研究における放射光実験は、一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)のコアリション制度の下、NanoTerasu BL10Uにて実施されました。また、本研究は、科学研究費助成事業特別推進研究(JP23H05403研究代表者:高橋幸生)による助成を受けて行われました。
 
 

 用語説明 

注1.NanoTerasu:
宮城県仙台市 東北大学青葉山新キャンパス内にて整備が進められ、2024年4月に稼働を開始した中型放射光施設。国の主体機関である国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とする宮城県、仙台市、国立大学法人東北大学、一般社団法人東北経済連合会からなる地域パートナーで構成され、費用負担も含めた役割分担の元で整備が進められている。
 
注2.硫黄K吸収端:
X線のエネルギーを変化させたときに、硫黄原子が特定のエネルギーでX線を強く吸収する現象を指す。このエネルギー付近では、硫黄の電子状態や化学結合の違いによって吸収のされ方が変化するため、硫黄の化学状態を調べることができる。
 
注3.X線タイコグラフィ:
コヒーレントX線回折イメージングの手法のうちの一つ。試料にコヒーレントX線を照射する際、試料面上でX線照射領域が一部重複するように試料を二次元走査し、各走査点において回折強度パターンを取得する。得られた複数の回折強度パターンに対して位相回復計算を実行することで、一枚の試料像を取得する。
 
注4.計算機断層撮影:
試料をさまざまな角度から透過して得られた投影画像を、計算機によって再構成することで三次元構造を可視化する手法。試料内部の密度分布や構造情報を非破壊的に取得できる。
 
 

 論文情報 

タイトル:Three-dimensional imaging of sulfur chemical states in polymers with micrometer thickness using sulfur K-edge ptychographic tomography
著者:Yuhei Sasaki*, Nozomu Ishiguro, Masaki Abe, Shuntaro Takazawa, Naru Okawa, Mihiro Ikenaga, Fusae Kaneko and Yukio Takahashi*
*責任著者:東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
       大学院生 佐々木 雄平、教授 高橋 幸生
掲載誌:Scientific Reports
 
 
 

 問い合わせ先 

【研究に関すること】

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)
教授 高橋 幸生(タカハシ ユキオ)
TEL: 022-217-5166
Email: ytakahashi*tohoku.ac.jp
 
【報道に関すること】
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
 
住友ゴム工業株式会社 広報部
TEL: 03-5546-0113
 
※E-mailは*を@に置き換えてください。

お問い合わせ

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
〒980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉468−1

022-752-2331