Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】軽元素を含むCMOSイメージセンサー内部を 非破壊で3次元可視化 - NanoTerasuの高輝度テンダーX線が拓くナノ構造解析の新展開 -

2025.11.04

 本研究のポイント 

  • CMOSイメージセンサーの画素構造を、世界で初めて非破壊で三次元観察することに成功しました。
  • NanoTerasu(注1)の高輝度テンダーX線(注2)により、軽元素材料の分布や電子密度を約30nmの空間分解能で可視化しました。
  • 次世代半導体デバイスの設計・解析を支える新たな可視化手法として期待されます。
 

 概要 

CMOSイメージセンサー(CIS)は、スマートフォンやカメラ、自動運転技術、医療機器などに広く利用されている光電子変換デバイスです。その性能向上には微細な画素構造の解析が不可欠です。しかし、CIS内部にはシリコン(Si)やシリコン酸化物(SiO2)などの軽元素で構成された複雑な多層構造が存在し、従来の電子線を用いた手法では非破壊かつ高解像な三次元観察が困難でした。
 東北大学 大学院工学研究科の大川成大学院生、佐々木雄平大学院生、国際放射光イノベーション・スマート研究センターの石黒志准教授、高橋幸生教授らの研究チームは、3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」のビームラインBL10Uで得られる高輝度テンダーX線を利用し、X線タイコグラフィ(注3)と計算機断層撮影(注4)を組み合わせることで、市販のCISの内部三次元構造を約30 ナノメートル(nm、1 nmは10億分の1 m)の分解能で非破壊観察・定量評価することに成功しました。
 本手法は、画素内部の微小構造や高密度材料領域の識別、電子密度の定量評価などにおいて優れた性能を発揮し、今後の半導体デバイスの開発における有力な非破壊解析ツールとしての活用が期待されます。
 本研究成果は、米国物理学協会誌「Applied Physics Letters」に、11月3日付けでオンライン掲載され、注目論文(Featured Articles)に選出されました。

 

 詳細な説明 

  • 研究の背景
 スマートフォンやデジタルカメラ、車載センサーなどに広く搭載されるCMOSイメージセンサー(CIS)は、光を電気信号に変換する極めて重要なデバイスであり、その微細な画素構造の三次元配置が性能に直結します。近年、CISの高性能化に伴って、光学構造の立体化や絶縁膜の多層化など、複雑な三次元構造の設計・制御が進んでいます。そのため、開発段階や製造プロセスにおいて、ナノメートルスケールで構造を非破壊に可視化する新たな評価技術が求められています。
  従来の透過型電子顕微鏡(注5)による断面解析は、高い分解能を持つ一方で、試料の破壊を伴い、三次元構造全体を正確に把握することは困難でした。また、非破壊観察に優位なX線顕微鏡を用いても、シリコンや酸化膜などの軽元素材料を含む構造では、コントラストが得にくく、実装状態に近い試料内部を非破壊で観察するには限界がありました。これらの課題を解決するため、実デバイス構造をそのままの状態で三次元的に、かつ軽元素に対しても高い感度を持つX線可視化技術の確立が強く求められていました。
 
  • 今回の取り組み
 研究チームは、3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu」の高輝度テンダーX線ビームライン(BL10U)を活用し、CMOSイメージセンサーの画素構造を対象とした非破壊・三次元観察を世界で初めて実現しました。対象としたのは、1画素サイズが600 nm程度の商用CISデバイスであり、4 keVに単色化したコヒーレントX線を用いて、X線タイコグラフィと計算機断層撮影(CT)を組み合わせることによって、電子密度分布の三次元イメージングを実現しました(図1)。
 得られた再構成像では、光導波路構造、深堀絶縁構造(DTI)、金属配線などが約30 nmの分解能で可視化され、特に、SiとSiO2といった電子密度の近い軽元素材料の分布を高コントラストで識別することに成功しました。また、DTI内部に形成されたナノスケールの隙間構造も明瞭に検出され、プロセス由来の構造不良を非破壊で評価できる新たな手法としての有効性が示されました(図2)。
 
  • 今後の展開
 本手法は、CMOSイメージセンサーに限らず、MEMSデバイス、フォトニック素子、パワー半導体、メモリデバイスなど、多様な三次元集積デバイスに対して適用可能な非破壊評価技術として注目されます。特に、硬X線では困難であった軽元素材料の識別に優れることから、今後の微細構造設計や製造プロセスの最適化に大きく寄与することが期待されます。
 
図1. X線タイコグラフィ-CT測定の模式図と試料の走査型電子顕微鏡像
(a)NanoTerasuの高輝度テンダーX線を集光鏡で集光し、試料に照射する。試料からの散乱X線を画像検出器で測定する。
(b)試料として用いた市販CISの走査型電子顕微鏡像。黄色で囲った領域がX線タイコグラフィ-CTで観察した領域。
 
図2. CIS画素構造の断面解析
(a) 再構成された3次元像から得られた上面図(断面1および2)および側面図(断面3および4)の断面。
(b) 断面1(上)および断面2(下)に沿ったラインプロファイル。画素ピッチを示すとともに、異なる電子密度をもつ材料を明らかにしている。これらのラインプロファイルは、点線で示した領域(幅6ピクセル)にわたって平均化することで取得した
 
 

 謝辞 

 本研究は、科学研究費助成事業特別推進研究(JP23H05403研究代表者:高橋幸生)、科学研究費助成事業特別研究員奨励費(JP25KJ0550研究代表者:大川成)の助成を受けて行われました。NanoTerasu の加速器およびBL10Uの光源光学系の整備にご尽力された量子科学技術研究開発機構、光科学イノベーションセンターの方々に感謝致します。また、本成果に関する論文は『東北大学 2025年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業』の支援を受けました。
 
 

 用語説明 

注1  NanoTerasu:
宮城県仙台市 東北大学青葉山新キャンパス内にて整備が進められ、2024年4月に稼働を開始した中型放射光施設。国の主体機関である国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とする宮城県、仙台市、国立大学法人東北大学、一般社団法人東北経済連合会からなる地域パートナーで構成され、費用負担も含めた役割分担の元で整備が進められている。
 
注2  テンダーX線:
軟X線(Soft X-ray)と硬X線(Hard X-ray)の中間に位置する波長域(おおよそエネルギーで2~5 keV程度)のX線を指す。
 
注3  X線タイコグラフィ:
コヒーレントX線回折イメージングの手法のうちの一つ。試料にコヒーレントX線を照射する際、試料面上でX線照射領域が一部重複するように試料を二次元走査し、各走査点において回折強度パターンを取得する。得られた複数の回折強度パターンに対して位相回復計算を実行することで、一枚の試料像を取得する。
 
注4  計算機断層撮影:
試料をさまざまな角度から透過して得られた投影画像を、計算機によって再構成することで三次元構造を可視化する手法。試料内部の密度分布や構造情報を非破壊的に取得できる。
 
注5  透過型電子顕微鏡:
細く絞った電子ビームを試料に照射し、透過したビームから試料構造を観察する顕微法。原子レベルで像観察が可能だが、試料を数百ナノメートル程度まで薄く加工しなければならない。
 
 

 論文情報 

タイトル:Three-dimensional Imaging of CMOS Image Sensor Pixel Structures Using Ptychographic X-ray Computed Tomography in the Tender X-ray Regime
著者:Naru Okawa*, Nozomu Ishiguro, Yuhei Sasaki, Masaki Abe, Shuntaro Takazawa, Mihiro Ikenaga, and Yukio Takahashi*
*責任著者:東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授 高橋幸生
掲載誌:Applied Physics Letters
 
 
 

 問い合わせ先 

【研究に関すること】

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)
教授 高橋 幸生(タカハシ ユキオ)
TEL: 022-217-5166
Email: ytakahashi*tohoku.ac.jp
 
【報道に関すること】
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
 
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