研究成果・プレスリリース
【プレスリリース】コヒーレントX線により 金属材料内部のナノ構造変化を“動画”で観察 - 高性能材料開発に繋がる新手法 -
本研究のポイント
- 軽量・高強度なマグネシウム合金の加熱実験で、析出物の生成から成長までの過程をナノメートルスケールの“動画”で観察しました。さらに、個々の析出物の成長速度や方向の定量評価にも初めて成功しました。
- 光の位相がそろったコヒーレントX線を用いる複数の計測法とデータ科学的アプローチを組み合わせた新しい解析フレームワークを構築しました。
概要
マグネシウム合金は、実用金属の中で最も軽量かつ高強度であるため、自動車や家電製品、航空機などの構造材料として強く期待されています。
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センターの高澤駿太郎助教(理化学研究所 放射光科学研究センター イメージングシステム開発チーム 客員研究員)と高橋幸生教授(理化学研究所 放射光科学研究センター イメージングシステム開発チーム チームリーダー)らは、二宮翔助教、星野大樹准教授、西堀麻衣子教授、理化学研究所 放射光科学研究センター放射光機器開発チームの初井宇記チームリーダー、北陸先端科学技術大学院大学 共創インテリジェンス研究領域のダム ヒョウ チ教授らと共同で、コヒーレントX線回折を用いる複数の手法を統合した新しい解析フレームワークを構築しました。この手法を用いることにより、ナノメートル(nm、1 nmは10億分の1 m)からマイクロメートル(µm、1 µmは100万分の1 m)にわたる空間スケールと、数秒から数時間にわたる時間スケールで、析出物の生成・成長・粗大化という一連のプロセスを鮮明に捉えることに成功しました。今回の成果は金属材料にとどまらず、高分子材料、触媒・電池材料など、多様な用途の物質内部で生じる動的現象の解明に応用可能な汎用的フレームワークとして期待されます。
本成果は、2025年9月15日の週(米国東部時間)に「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」誌(PNAS、米国科学アカデミー紀要)にオンライン掲載されます。
詳細な説明
- 研究の背景
しかし、これらの現象は高温状態の合金内部で起こるため、その様子を「その場(in-situ)」で、かつナノメートルスケールの高い空間分解能で直接観察することは非常に困難でした。従来の透過型電子顕微鏡(注1)を用いた観察では、試料をごく薄く加工する必要があり、厚みのあるバルク材料本来の性質を反映しているか不明であるという課題がありました。そのため、厚みのある試料の内部を、実用環境に近い高温下で、ナノメートルスケールの空間分解能で直接観察できる新しい技術が求められていました。
- 今回の取り組み
まず、X線タイコグラフィを用いて、Mg97Zn1Gd2合金を700 Kで10時間にわたって加熱保持した際の緩やかな構造の変化を追跡しました(図2)。その結果、合金内部に元々存在していた(Mg, Zn)3Gdという化合物が溶解し、長周期積層構造(LPSO構造)(注7)が析出、粗大化していく様子を明瞭に捉えることに成功しました。
次に、より短い時間スケールで起こる構造の変化を捉えるため、連続取得した回折強度パターンについて、動的CXDIとXPCSによる解析を実施しました。その結果、700 Kで加熱保持を開始してからわずか数十秒で析出物の形成が始まり、その後数百秒かけて粗大化することを明らかにしました(図3(a, b)と図4(a, b))。
さらに、動的CXDIで得られた動画データに対して、オプティカルフロー解析(注8)を適用しました。これにより、個々の析出物がどの方向にどれくらいの速さで成長しているかを可視化し、構造変化の速度を定量的に評価することに成功しました。
これらの結果を統合することで、合金内部で起こる析出物の「生成」「成長」「粗大化」という一連の現象を、複数の時空間スケールにわたって包括的に解明することが可能になりました。(図4(c))
- 今後の展開



(b)構造が変化する速さの加熱保持時間依存性。図3(a)で取得したマップを解析することで得られる。約400秒を境に減少傾向が変化しており、このタイミングで主な構造の変化が(Mg, Zn)3Gdの分解からLPSO相の成長へと切り替わることを反映している。

(b)図4(a)に示した試料像から、700 Kに到達する前に取得していた試料像を差し引いた差分画像。加熱保持によってLPSO相が形成されている領域が、緑色の領域として現れている。スケールバーは2 µm。
(c)ある時刻について、オプティカルフロー解析によって得られた変位ベクトル(緑色の矢印)を再構成した試料像に重ねたもの。析出物の成長方向が矢印の向き、速度が矢印の長さによって定量的に可視化されている。上図のスケールバーは2 µm、赤色破線の枠内を拡大した下図のスケールバーは500 nm。
謝辞
用語説明
論文情報
著者:Shuntaro Takazawa, Kakeru Ninomiya, Minh-Quyet HA, Tien-Sinh VU, Yuhei Sasaki, Masaki Abe, Hideshi Uematsu, Naru Okawa, Nozomu Ishiguro, Kyosuke Ozaki, Takaki Hatsui, Taiki Hoshino, Maiko Nishibori, Hieu-Chi DAM, and Yukio Takahashi*
*責任著者:東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授 高橋幸生
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
DOI:10.1073/pnas.2513369122
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2513369122
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