Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】ゼオライト結晶化の「最初の一歩」を可視化 原子の「ねじれ」の秩序化が結晶化に先行する 新原理を発見 - 触媒・分離材料の開発を、経験則から予測設計へ ー

2026.5.20

 発表のポイント 

  • ゼオライト(注1)が結晶になる前に、シリケート(注2)骨格の三次元的な「ねじれ」が先に整い始めることを、X線発光分光(注3)によって直接捉えました。
  • 従来のX線回折(注4)などでは見えにくかった、結晶化前の局所的な三次元構造変化を可視化する新しい方法を示しました。
  • 本成果は、ゼオライトをはじめとする多孔質材料やネットワーク材料の合成を、経験と試行錯誤に頼る方法から、構造形成の途中過程を見ながら最適化する材料設計へと進める基盤になると期待されます。
 

 概要 

 ゼオライトは、石油化学触媒、環境浄化、分離膜などに広く用いられる重要な多孔質材料です。しかし、ゼオライトがどのようにして無秩序な前駆体から秩序だった結晶へと変化するのか、その初期過程はこれまで十分に見えていませんでした。特に、原子のつながり方を決める三次元的な幾何学情報は、従来法では捉えにくく、結晶化の最初の段階はブラックボックスのままでした。
 東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センターの二宮翔助教、西堀麻衣子教授らの研究グループは、酸素 1s X線発光分光(O 1s XES)を用いて、MWW型ゼオライトの結晶化過程を詳細に追跡しました。その結果、結晶が現れる前の段階で、シリケート骨格の O–Si–O–Si のねじれ角(注5)が無秩序な状態から段階的に整い始めることを見いだしました。さらにこの秩序化は、X線回折で長距離秩序が現れるより前に起こり、また鉄(Fe)の本格的な骨格導入よりも先に進行することが分かりました。
 本研究は、ゼオライト結晶化において、結晶がいきなり形成されるのではなく、まず三次元ネットワークの“形の準備”が起こることを示したものです。研究グループはこの知見をもとに、「トポロジー・ファースト(topology-first)」(注6)とも言える新しい結晶化像を提案しました。

 本成果は2026年5月20日付(米国時間)で、米国化学会が発行する学術誌Journal of the American Chemical Societyに掲載されました。
 なお、本研究成果は、東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センターのYin Zhong准教授、板本航輝大学院生(当時、同大学院環境科学研究科)、東北大学多元物質科学研究所の真柄英之博士、津田健治教授、寺内正己教授、量子科学技術研究開発機構のUgalino Ralph博士、東京大学物性研究所の原田慈久教授、木内久雄助教(当時)、東京科学大学総合研究院 ナノ空間触媒研究ユニット の横井俊之教授らの共同研究グループにより行われました。
 

 詳細な説明 

【研究の背景】
 ゼオライトは、触媒、吸着材、分離膜などとして産業的に極めて重要な材料です。一方で、その合成は長年にわたり、温度、時間、組成、構造規定剤などを変えながら最適条件を探る、経験的な方法に強く依存してきました。その背景には、ゼオライトが結晶化する途中で何が起こっているのかを、原子レベルで直接見ることが難しかったという問題があります。
 特に、X線回折やPDF解析(注7)などの従来法は、原子間距離や長距離秩序の評価には優れていますが、三次元ネットワークの形成を左右するねじれ角のような構造指標には本質的に鈍感です。そこで研究グループは、酸素原子まわりの電子状態に敏感な O 1s X線発光分光(XES) に注目しました。
 
【研究手法と成果】
 本研究では、Fe を含む MWW 型ゼオライトの合成途中試料を対象に、O 1s XES を測定し、さらに第一原理計算を組み合わせてスペクトル変化の起源を解析しました。その結果、合成が進むにつれて現れる特徴的なスペクトル変化は、Si–O 結合長や Si–O–Si 結合角の変化だけでは説明できず、O–Si–O–Si ねじれ角の秩序化によって最もよく再現されることが分かりました。
 また、ポテンシャルエネルギー面の計算から、無秩序な状態に多い不利な配座よりも、より安定な、ずれた(staggered)配座へ向かうことが熱力学的に妥当であることも示しました。ねじれ角がずれた(staggered)配座に向かってそろっていくことで、局所構造は逆に無秩序な配座より低対称となり、その結果、酸素原子上への電子局在が強まります。XESでこの微小な電子状態の変化を敏感に捉えることで、構造変化を可視化しました(図1)。
 今回観測された構造変化は偶然ではなく、シリケート骨格がより安定な三次元構造へ向かう本質的な過程であると考えられます。
 さらに、O 1s XES、X線回折(XRD)、Fe K端X線吸収分光(XAFS)などを総合すると、ゼオライトの結晶化は、シリケート骨格内部で、局所的なねじれ秩序が生じる(Stage I)、長距離秩序が現れ、結晶核形成が始まる(Stage II)、結晶成長が加速し、Fe の骨格導入が顕著になる(Stage III)の三段階で進むことが分かりました(図2)。
 このことから、結晶化に先立って三次元ネットワークの局所秩序化が起こるという、新しい結晶化メカニズムが明らかになりました
 
【今後の展開】
 本研究により、ゼオライト合成の初期段階を可視化する新しい分析手法が示されました。これは、完成した材料だけを評価するのではなく、できる途中の構造変化を見ながら合成条件を最適化する方向につながります。将来的には、より高性能な触媒や分離材料の設計、さらにはガラス、金属有機構造体(MOF)、その他のネットワーク材料の形成機構解明にも広がる可能性があります。
 
図1 X線発光分光で捉えた結晶化前の原子ネットワーク変化
ゼオライトが結晶になる前に、原子ネットワークの「ねじれ」が先に整い始めることを、X線発光分光によって捉えた。実験スペクトルと理論計算の比較から、結晶化初期にはシリケート骨格の三次元的な配列が変化していることがわかった。
 
 
図2 ゼオライト結晶化の「最初の一歩」の模式図
ゼオライト結晶化は、最初から結晶ができるのではなく、まず原子ネットワークの形が整い、その後に結晶核形成と結晶成長が進む。今回の結果は、この「最初の一歩」を示したものである。
 

 謝辞 

 本研究は、JSPS科研費(JP21H05011、JP25H00900、JP23K23032)および ナノテラスDX利用促進課題の支援を受けて行われました。放射光X線実験は、大型放射光施設(注8) SPring-8 の BL01B1 および BL27SU、ならびに NanoTerasu の BL07U、BL08U、BL08W にて実施されました。NanoTerasu における一部の放射光X線実験は、一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)のコアリション制度のもとで行われました。本研究におけるシミュレーション計算の一部は、東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータ「AOBA」を利用して行われました。本計算の実施にあたっては、ナノテラスDX利用促進課題の支援を受けました。また、掲載論文は東北大学「令和8年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」によりOpen Accessとなっています。
 


 用語説明 

注1.  ゼオライト:内部に微細な孔を持つ結晶性多孔質材料。触媒、吸着材、分離膜などに広く利用される。
 
注2.  シリケート:ケイ素(Si)と酸素(O)からなる化合物の総称。ゼオライトの骨格を形成する基本的な単位。
 
注3.  X線発光分光:物質にX線を照射した際に放出されるX線を測定し、原子周辺の電子状態や局所構造を調べる手法。(XES:X-ray Emission Spectroscopy)
 
注4.  X線回折:結晶にX線を照射し、跳ね返ってきた光(回折)のパターンから結晶の構造(原子の規則配列)を調べる手法。
 
注5.  ねじれ角:原子が連なった構造の三次元的な向きやねじれ具合を表す幾何学パラメータ。本研究では O–Si–O–Si のねじれ角が重要な指標となった。(torsion angle)
 
注6.  トポロジー・ファースト(Topology First):結晶としての周期的な規則性(長距離秩序)が現れるよりも前に、まず原子同士のつながり方やねじれ(局所的なトポロジー)が秩序化する、本研究で提唱された新しい結晶化の基本原理。
 
注7.  PDF解析:二体分布関数(Pair Distribution Function)解析の略。X線や中性子散乱のデータから、物質内の原子間の距離分布を導き出す手法。
 
注8.  大型放射光施設:電子を光速近くまで加速させ、その際に発生する非常に明るい光(放射光)を用いて、物質の構造や機能を原子・分子レベルで分析できる研究施設。
 
 

 論文情報 

タイトル: Torsional ordering as a prerequisite for zeolite crystallization revealed by X-ray emission spectroscopy
著者: Kakeru Ninomiya†, Ralph Ugalino, Koki Itamoto, Zhong Yin, Hisao Kiuchi, Yoshihisa Harada, Hideyuki Magara, Kenji Tsuda, Masami Terauchi, Toshiyuki Yokoi, Maiko Nishibori*
掲載誌: Journal of the American Chemical Society
†筆頭著者: 東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 助教 二宮 翔
*責任著者: 東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授 西堀 麻衣子
DOI: 10.1021/jacs.6c03877
 
 

 関連リンク 

 
 

 問い合わせ先 

【研究に関すること】

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)
(兼)多元物質科学研究所
教授 西堀 麻衣子(にしぼり まいこ) 
TEL: 022-752-2346
Email: maiko.nishibori.d8 * tohoku.ac.jp
 
 
【報道に関すること】
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen * grp.tohoku.ac.jp
 
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