Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】界面に潜んだ重い電子の存在をはじめて実証 ─界面を利用した新たな強相関量子状態の人工設計へ─

2026.10.07

 発表のポイント 

  • 「重い電子※1状態」と呼ばれる超伝導などの特異な性質の起源となる電子の状態が、単原子層物質と金属との界面に形成されていることを初めて実証
  • 高品質な単原子層薄膜の作製と、放射光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)※2による高精度な測定を組み合わせることで直接観測を実現
  • 界面構造や電子軌道を精密に制御する新たな物質設計により、特異な超伝導をはじめとする低次元の新しい強相関量子状態の創出への展開に期待 
 

 概要 

 大阪大学大学院生命機能研究科 中村拓人 助教(理学研究科兼任)、木村真一 教授(理学研究科兼任、自然科学研究機構分子科学研究所 クロスアポイントメント)、同理学研究科 杉原弘基さん、市川龍さん、山口紘佳さん(研究当時 博士前期課程)、陳奕同さん(研究当時 博士後期課程、現 京都大学大学院人間・環境学研究科 助教)、西原快人さん(博士後期課程)、名古屋大学 未来材料・システム研究所 宮町俊生 准教授、小森文夫 客員教授、東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 湯川龍 准教授、筑波大学 数理物質系 長谷川友里 助教、量子科学技術研究開発機構(QST) 大坪嘉之 主任研究員、自然科学研究機構分子科学研究所 田中清尚 准教授の研究グループは、単原子層物質と金属との界面に近藤効果※3に由来した重い電子状態が存在することを世界で初めて明らかにしました。
 異なる物質の界面に近藤効果に由来する重い電子状態の形成は予測されていましたが、実際にどのように形成されているのかを直接捉えることは困難でした。今回、研究グループは、銅(Cu)単結晶基板上に高品質な単原子層イッテルビウム・銅(YbCu₂)薄膜を作製し、その電子状態をシンクロトロン光※4を用いた角度分解光電子分光(ARPES)によって詳細に調べました。その結果、YbCu₂原子層とCu基板との界面に形成される重い電子状態を観測しました。これにより、YbCu₂原子層のYb 4f電子とCu基板に由来する伝導電子が界面を越えて混成し、重い電子状態を形成していることが実証されました(図1)。
 この成果は、原子層と基板の組み合わせによって重い電子状態を人工的に設計し、将来的にはそれに由来する特異な超伝導などの新しい量子現象を創出する可能性を示すものです。今後、界面構造や電子軌道、モアレ構造などを精密に制御することで、低次元系における新たな強相関量子状態の創出につながることが期待されます。
 本研究成果は、英国科学雑誌ネイチャー系の国際学術誌「Communications Materials」に、2026年10月6日(火)に公開されました。
 
図1. YbCu2とCuの間を伝播する界面重い電子の概念図
 
 
【中村拓人助教のコメント】
 今回の研究は、これまで私たちが続けてきた「できるだけきれいな物質をつくり、その電子状態をできるだけ精密に測る」という地道な取り組みの積み重ねによって、初めて実現できた成果だと考えています。
今後は、このような特徴的な重い電子状態そのものを人工的に設計・制御できるようにしたいと考えています。さらに、こうした界面を舞台として、特異な超伝導や量子臨界現象など、これまでにない強相関量子状態の創出につなげていきたいです。
 
 

 研究の背景 

 将来の経済覇権を左右する重要資源であるレアアースは、AI(人工知能)に用いる半導体や小型モーターの性能強化、高輝度蛍光材料、さらには脱炭素社会の実現などに向けた最先端技術に不可欠です。こうした多彩な用途を生み出す重要な要素が、希土類元素が持つ特殊な電子状態の「4f電子」です。4f電子は、原子の近くに強く局在する性質を持つ一方で、周囲を動き回る伝導電子と相互作用することで、通常の金属では見られないさまざまな量子現象を引き起こします。その代表例が「近藤効果」です。近藤効果では、局在した4f電子が持つ磁気モーメントと、物質中を動き回る伝導電子が量子力学的に相互作用します。さらに、希土類原子が結晶中に周期的に並んだ際には、近藤効果が結晶の各サイトで発生することで、通常の伝導電子よりも非常に大きな有効質量を持つ「重い電子」が形成されます。このような重い電子状態は、非従来型超伝導や量子臨界現象など、電子同士の強い相互作用によって生じる「強相関電子系」の多彩な量子現象と密接に関係しており、現代の物性物理学における重要な研究対象となっており、将来のエレクトロニクスを支える基盤になることが期待されています。
 一方、近年では、グラフェンに代表される原子数層程度の厚さを持つ低次元材料の研究が急速に発展しています。特に、捻り二層グラフェンなどに代表されるように2つの同じ層を傾けて積み重ねることや、別の種類の層を積み重ねて、その「界面」を利用することで、もとの物質単体には存在しない新しい電子状態や量子現象を人工的に生み出す研究が注目されています。物質そのものを合成するだけでなく、どの物質を組み合わせるか、どのような原子配列で接合するかといった「界面設計」によって電子状態を制御できることが大きな特徴です。こうした流れの中で注目されているのが、近藤効果を物質の界面で発現させる「界面重い電子状態」です。従来の重い電子物質では、局在した4f電子と伝導電子は基本的に同じ結晶の中に存在します。これに対して界面重い電子状態では、局在した磁気モーメントを担う電子と伝導を担う電子がいる層を分離し、その界面を越えた相互作用によって重い電子を形成することが考えられます。このような仕組みが実現すれば、異なる物質の組み合わせや界面構造を変えることで近藤効果の強さを制御し、新しい強相関量子状態を人工的に設計できる可能性があります。しかし、これまでの研究では、異なる物質の界面において重い電子状態が実際にどのように形成されているのかを直接捉えることは困難でした。そのため、もともと存在する電子状態と区別して界面に形成された電子状態を実験的に観測することが求められていました。
 
 

 研究の内容 

 今回、研究グループは、銅(Cu)単結晶の表面に、希土類元素の一つであるイッテルビウム(Yb)と銅からなる高品質な単原子層YbCu₂薄膜を作製しました。図2(b)に示した、原子スケールで原子の並びを観測できる走査トンネル顕微鏡像が示すように、原子レベルで規則的に配列した薄膜が作製できており、さらに、基板の銅単結晶と単原子層YbCu2薄膜とのわずかな格子定数の違いに由来した「干渉(モアレパターン)も明瞭に現れました。モアレパターンの存在は、急峻できれいな界面が形成されていることを意味します。また、YbCu₂は、Yb原子が規則正しく配列した二次元の近藤格子を形成しており、Yb原子に局在する4f電子と、YbCu₂層内を動き回る伝導電子との相互作用によって、二次元的な重い電子状態を形成することがこれまでの研究から分かっています。一方、その直下には三次元的な電子状態を持つCu基板が存在するため、YbCu₂層のYbの4f電子が基板由来の伝導電子とも相互作用すれば、YbCu₂層とCu基板との界面に新たな重い電子状態が形成される可能性があります。
 そこで研究グループは、シンクロトロン光を用いた高分解能角度分解光電子分光(ARPES)によって、YbCu₂/Cu(111)の電子状態をエネルギーと運動量の両方について詳細に調べました。測定の結果、図2(c)に示すように結合エネルギー0eV(フェルミ準位)近傍にはYb 4f 電子と繋がった性質の異なる二種類の重い電子状態が存在することが分かりました。一つは、YbCu₂原子層内を伝播し、光のエネルギーを変化させてもほとんど分散が変化しない二次元的な重い電子状態(図2(c)中A)です。もう一つ(図2(c)中B)は、Cu基板に由来する伝導電子のバンドであり、光のエネルギーに応じて電子状態が変化することから、基板内部まで広がった三次元的な性質を持つことが明らかになりました。すなわち、これまで重い電子状態は、同じ結晶内部に存在する局在4f電子と伝導電子が作るものと考えられてきましたが、今回、YbCu2内の局在Yb 4f電子とCu基板内の伝導電子が、異なる原子層と基板であるにもかかわらず混成して「界面重い電子状態」を作っていることを初めて明らかにしました。
 
 
図2.  (a) Cu(111)上YbCu2薄膜の表面原子構造。 (b) 走査トンネル顕微鏡により観測されたCu(111)上YbCu2薄膜の実空間像。高品質な界面形成の証拠であるモアレパターンが明瞭に観測されている。(c)ARPESより観測された電子状態の運動量依存性。
 

 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義) 

 この成果は、原子層と基板の組み合わせによって重い電子状態を界面に人工的に設計し、将来的にはそれに由来する特異な超伝導などの新しい量子現象を創出する可能性を示すものです。今後、界面構造や電子軌道、モアレ構造などを精密に制御することで、低次元系における新たな強相関量子状態の創出につながることが期待されます。
 

 特記事項 

本研究成果は、2026年10月6日(火)18時(日本時間)に英国科学雑誌ネイチャー系の国際学術誌「Communications Materials」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Interfacial heavy fermion formation in a two-dimensional Kondo lattice YbCu2 on Cu(111) substrate”
著者名:Takuto Nakamura, Hiroki Sugihara, Toshio Miyamachi, Yitong Chen, Kaito Nishihara, Ryo Ichikawa, Hiroka Yamaguchi, Ryu Yukawa, Kiyohisa Tanaka, Yuri Hasegawa, Yoshiyuki Ohtsubo, Fumio Komori, Shin-ichi Kimura
DOI:https://doi.org/10.1038/s43246-026-01332-5
 
なお、本研究は、科研費(課題番号: 20H04453, 22K14605, 23H00090, 24K01356, 24K21197, 25K17949)の補助を受け、自然科学研究機構・分子科学研究所・UVSOR施設利用(課題番号: 22IMS6861, 22IMS6848, 23IMS6852, 23IMS6838, 23IMS6670, 23IMS6660)により行われました。
 
 


 用語説明 

※1 重い電子:
低温において、固体内の伝導する電子が近藤効果によって局在的な電子(希土類元素では4f電子)と混成することで、みかけの質量(有効質量)が増大する現象。従来のBCS理論に従わない特殊な超伝導などの興味深い現象の起源となる。

※2 角度分解光電子分光(ARPES):
固体表面に光を当てて光電効果によって飛び出てくる電子(光電子)の角度とエネルギーを観測することにより、固体内の電子の運動量と束縛エネルギーを観測する手法。固体における電子の状態を調べる実験方法として近年盛んに用いられている。シンクロトロン光と組み合わせることで、高い精度で観測が行われている。さらに、照射する光のエネルギーを変化させることで、観測された電子状態が原子層内に閉じ込められた二次元的な状態なのか、それとも基板内部まで広がった三次元的な状態なのかを区別することができる。
 
※3 近藤効果:
純粋な金属は、温度を下げていくとその電気抵抗が単調に減少するが、金属中に磁性不純物(鉄やニッケルなど)がごく僅かに存在する場合、ある温度以下で電気抵抗が増加する現象である。この現象は古くから知られていたが、その物理的機構を1964年に 故・近藤淳 博士(2020年 文化勲章)が初めて理論的に解明したことから、この名前が付けられている。
 
※4 シンクロトロン光:
光速近くまで加速された電子の軌道が磁場によって曲げられた時、その接線方向に発生する光のことで、最近は次世代放射光ナノテラスの建設が進んでいることで話題になっている。高い輝度・偏光性・エネルギー可変性などの優れた特徴があり、材料開発などの幅広い分野で活用されている。本研究では、KEK放射光実験施設フォトンファクトリーと分子科学研究所 極端紫外光研究施設UVSOR-IIIを利用した。
 

 関連リンク 

 
 

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