センター長からのメッセージ
地域産業を支え、
世界の「知」とつながり、
未来をかえる。
最先端科学の「光」が、
イノベーションの源泉と
なります。

東北大学 国際放射光
イノベーション・スマート研究センター
センター長 村松 淳司
今、世界最先端の「光」が、仙台の地に誕生しようとしています。光の正体は「次世代放射光」、太陽光の10億倍以上明るい光で、私たちをナノの世界へと誘う巨大な顕微鏡です。この超先端的な可視化ツールで何ができるのでしょう ―― 肉眼ではとらえることのできない非常に微視的な構造や電子の振る舞いを観察し、機構を理解することは、サイエンスを飛躍的に進化させる原動力になります。社会経済に大きなインパクトを与えるイノベーションの源になるかもしれません。産業界ではデータなどの分析結果を、商品開発や経営戦略に反映させることができます。自社製品の中で起きている現象をナノレベルで解明することは、品質改善・向上につなげることができます。試行錯誤、経験・勘に頼る “ものづくり”が一変する可能性があります。
高い光源性能を有する世界最高レベルの施設を核に、世界最大規模のリサーチ・コンプレックスが始動しています。国内の主要大学(+東北7大学)を含めたグローバルな連携による研究・教育、次世代人材の育成と交流(国際的頭脳循環)、課題・ノウハウの共有、実現可能性の模索などを展開する取り組みです。その重要な結節点の役割を担うのが「東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター」(以下SRIS)です。すでに世界の放射光科学研究者を集めた国際フォーラム、全国各地でのシンポジウム・説明会などを主催し、広報と気運の醸成に努めています。複数の研究プロジェクトが動き出しており、中でも感染症をターゲットとした研究は、大きな注目を集めています。
次世代放射光施設は、国内でも珍しいコアリション(有志連合)・コンセプトに基づく官民地域パートナーシップにより運営されます。これは産業界が抱える課題(製品開発、ブランド化など)を学術(SRIS)が共有し、社会実装・出口戦略に向けて二人三脚で前進する新しい産学連携の仕組みです。SRISでは「横幹」「基幹」「展開」の3つの研究部門に14のスマートラボを設置しており、それぞれの高度専門領域から放射光の利活用を支援し、発見や成果を横断的かつ有機的に接続させることで新価値創造に結んでいきます。東北地方の産業構造は、第一次産業の比率が全国平均と比べて高い傾向にあります。放射光分析による農水産物のブランド化、品質向上、安全性の担保などは産業振興の面からも期待されるところです。
次世代放射光施設は、科学のフロントラインを走る研究者だけのものではなく、地域、産業界に開かれたものです。潜在する技術シーズを照らす光、未来技術の可能性を輝かせる光 ―― ファーストビームは2023年です。