Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】ナノ磁石の磁気特性を層ごとに独立設計 ─原子の疎密をナノの世界に埋め込み、材料設計に新たな自由度を─

2026.10.30
 研究成果のポイント 
  • ナノ磁石の多層膜の中で、磁石としての性質(磁化の向きやすさ)を層ごとに独立して作り分けることに成功
  • 2つの層が数ナノメートルしか離れていないにもかかわらず独立にふるまうことを確認し、ナノメートルスケールで原子の疎密が急に切り替わる界面の形成を示唆
  • 磁石以外の超伝導体・半導体など多様な材料にも応用できる可能性があり、医療・ヘルスケアを支えるフレキシブルエレクトロニクスや高感度センサなど幅広い波及効果に期待
 

 研究概要 
 

大阪大学産業科学研究所の森田利明助教と千葉大地教授(兼 東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター センター長・教授)は、ナノ磁石の多層膜の中で、磁石としての性質(磁化の向きやすさ)を層ごとに独立して作り分けることに成功しました(図1)。

図1:1枚の薄膜の各層の磁気特性を独立に設計し、埋め込むことに成功:フレキシブル基板をX方向に引っ張りながら下部磁性層を、Y方向に引っ張りながら上部磁性層をそれぞれ成膜し、引っ張り応力を開放する(上段)。これにより、下部磁性層にはX方向に、上部磁性層にはY方向に圧縮ひずみが導入される。積層膜の磁気特性は、上下層の磁気特性が足し合わされた性質を示す(下段グラフ参照)。
 

材料の性質は、構成する原子の並び方や間隔によって大きく変わります。研究グループはこれまでに、柔らかい基材を伸ばした状態で磁石のナノ薄膜を成膜し、その後、基材を元の長さに戻すことで、薄膜内の原子間隔をあらかじめ縮め、磁化の向きやすさを作り込む手法を報告してきました。

今回、研究グループはこの手法を一歩進め、2層の薄膜のそれぞれに、異なる原子の疎密を独立して埋め込みました。その結果、2つの層で(1)「磁化の向きやすさ」が異なるもの、(2)「磁化の向きやすい方向」が互いに直交するもの、という2種類のナノ薄膜を実現しました。

本成果は、フレキシブルエレクトロニクスで活躍するデバイスや高感度センサ、次世代スピントロニクス※1デバイスなどへの応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌『Applied Physics Letters』の2026年10月26日号(オンライン)に掲載されました。

 
【千葉教授のコメント】
今回、1枚のナノ薄膜の中で、異なる磁石の性質を作り分けることに成功しました。数ナノメートルしか離れていない2つの層が、それぞれ異なる磁化の向きやすさを持つという結果は、材料の中に機能の境界を人工的に書き込めることを示しています。材料の組成を「変える」のではなく、原子の疎密を設計することで機能を「作る」。人類が“マテリアル”という素材を、より精密に調理して使いこなす未来につながる成果だと考えています。
 
 

 研究の背景 

材料の性質は、それを構成する原子の並び方や間隔によって大きく変わります。原子の間隔をあらかじめ人工的に設計できれば、新しい性質――すなわち「機能」をもった材料を生み出すことができます。
エレクトロニクスデバイスの要となるナノ薄膜は、通常、基材の上に成膜されます。このとき、薄膜の原子の間隔は、基材の結晶格子に引きずられて広がったり縮んだりすることがあります。これは「エピタキシャル※2ひずみ」と呼ばれ、たとえば半導体の性能向上に活用されてきました。しかし、この方法には、きれいな結晶格子をもつ基材が必要でした。また、材料の組み合わせに制約があり、さらに薄膜の中で場所ごとに異なるひずみを作り分けることが難しい、といった課題がありました。
研究グループはこれまでに、柔らかい基材を伸ばした状態で磁石のナノ薄膜を成膜し、基材を元に戻すことで原子の間隔を縮め、磁化の向きやすさを薄膜内に作り込む手法を報告してきました。この手法は、基材の結晶格子に縛られず、伸ばす量によってひずみの大きさを調整できる点に特長があります。今回はこの手法を発展させ、1枚のナノ薄膜の「層ごと」に、原子の疎密を独立して作り分けることに挑みました。
 

 研究の内容 

研究グループは、柔軟性のある基材(ポリイミド系のフレキシブル基材)を伸ばした状態で、磁石の性質を示すコバルトのナノ薄膜を成膜しました。成膜には、スパッタリング※3という手法を用いました。
今回の鍵は、2層のコバルト薄膜を、磁石ではない薄い金属の中間層(3ナノメートル)をはさんで重ね、それぞれの層に異なる原子の疎密を独立して作り込んだことです。具体的には、1層目を成膜したのち、いったん基材の伸ばし方を変えてから2層目を成膜することで、層ごとに異なるひずみの状態を埋め込みました(図1上参照)。
その結果、2種類のナノ薄膜を実現しました。1つは、2つの層で磁化の向きやすさが異なるもの。もう1つは、2つの層で磁化の向きやすい「方向」が互いに直交するものです。磁化特性の測定から、それぞれの層が、自分に埋め込まれたひずみに応じた磁石の性質を、独立して示すことが確認できました。また、2つの層を別々に作った単層薄膜の磁化特性を足し合わせると、2層を重ねた試料の特徴をよく再現できることも分かりました(図1グラフ参照)。
2つのコバルト層は3ナノメートルしか離れていません。それでも各層が独立にふるまうという事実は、その間で原子の疎密が急に切り替わっていること――つまり、ごく短い距離で原子の間隔が変わるような「凍結されたひずみ界面」(elastic discontinuity=弾性不連続)が形成されていることを示唆しています。これはエピタキシャル成膜のように、下地の結晶格子の原子間隔に倣うような状況とは異なる状況です。風船を膨らませた状態でペンで文字を書き、空気が抜けて縮むとインク粒子が密になります。その上にさらに文字を書くと、インク粒子の疎密が急激に変化する界面ができます(図2)。本研究で作製した薄膜界面では、このようにひずみが急峻に入れ替わる界面がナノの世界で実現できている可能性があり、今後、さらなる研究を進める予定です。

図2:膨らませた風船にペンで文字を書き、縮ませると、インクは濃くなる。つまり、インクの粒子は密になる。インクを乾かしてから、その上に改めて文字を書くと、濃い文字の上に薄い文字が書かれることになる。つまり、インク粒子の疎密が急激に変化する界面が形成される。本研究で作製したナノ薄膜の積層界面でも、同様な状況が起こっている可能性がある。

 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義) 

本研究は、1枚のナノ薄膜の中で、原子の疎密の度合いや向きを層ごとに作り分けることで、磁化しやすい方向を独立に設計できることを示しました。これは、ナノ薄膜の機能設計における新たな自由度を切り拓くものです。
本手法により、将来的には磁石にとどまらず、超伝導体・半導体・誘電体など多様な材料において、原子の疎密を層ごとに設計し、新たな機能を組み込める可能性があります。
特に、2つの層の磁化しやすい方向を互いに直交させる構造は、磁界センサや、研究グループが製品化を目指している磁性体を用いた超高感度ひずみセンサの性能向上などに役立つ可能性があります。医療・ヘルスケアを支えるフレキシブルエレクトロニクスや、高感度・省電力な次世代センサ、さらに基礎科学への幅広い波及効果が期待されます。
 
 

 特記事項 

本研究成果は、米国科学誌『Applied Physics Letters』の2026年10月26日号(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Layer-by-layer programming of built-in strain in Co bilayers”
著者名:Toshiaki Morita and Daichi Chiba
DOI:https://doi.org/10.1063/5.0349990
なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(S)「ナノ・エラストロニクス」(課題番号:26K21747)・基盤研究(A)「スピンエラストロニクス」(課題番号:23H00183)・特別研究員奨励費(課題番号:24KJ1613)、文部科学省博士課程教育リーディングプログラム 大阪大学「インタラクティブ物質科学・カデットプログラム」、JST戦略的創造研究推進事業CREST(課題番号:JPMJCR20C6)、同 研究成果最適展開支援プログラムA-STEP(課題番号:JPMJTR20T7・JPMJTR233A)、文部科学省次世代X-nics半導体創生拠点形成事業、スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク拠点の援助を受けて行われました。
 


 用語説明 

※1 スピントロニクス
電子が持つ「電荷」の自由度に加えて量子的な性質である「スピン」の自由度も利用することで、従来のエレクトロニクスでは実現できなかった機能を有するデバイスの実現を目指す研究分野。
 
※2 エピタキシャル
結晶性の基材の上に、同じような結晶構造を持つ薄膜を、原子レベルで整列させながら結晶成長させる状況を指す。
 
※3 スパッタリング
量産にも用いられ、エピタキシャル成長を必要としない手法。プラズマ化させた希ガス元素イオンを材料に衝突させ、はじき出された材料原子が基板上に付着することで薄膜を形成する手法。
 
 
 
 

 問い合わせ先 

【研究に関すること】

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター センター長/教授
(兼 大阪大学 産業科学研究所/教授)
千葉 大地(ちば だいち)
TEL: 022-217-6357
Email: dchiba*tohoku.ac.jp
 

【報道に関すること】

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)戦略室
TEL: 022-752-5139
Email: sris-senryaku*grp.tohoku.ac.jp
 
※E-mailは*を@に置き換えてください。

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〒980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉468−1

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