研究成果・プレスリリース
【プレスリリース】核酸を濃縮内包し、近赤外光放出する金ナノカプセルを開発 〜新しい核酸ナノキャリアへの展開に期待〜
発表のポイント
- 水中で安定な200 nm以下の近赤外光応答性金ナノ粒子カプセルを作製。
- 相分離を利用して水溶性物質を1,000倍以上に濃縮し、DNAを90%以上の効率で内包。
- 低出力の近赤外LED光でDNAを迅速に放出。核酸デリバリーへの応用に期待。
概要
北海道大学電子科学研究所の三友秀之准教授、同大学大学院生命科学院博士後期課程の張 冬雨氏、東北大学多元物質科学研究所の谷地赳拓助教、米倉功治教授(理化学研究所放射光科学研究センターグループディレクター兼務)らの研究グループは、核酸などの水溶性物質を高濃縮して内包し、近赤外光*1の照射によって効率的に放出できる金ナノ粒子カプセルを開発しました。
研究グループはこれまでに、水相中の溶質が濃縮されることで生じる相分離*2を利用して、金ナノ粒子からなる微小なカプセルの内部に水溶性物質を1,000倍以上に濃縮して内包する手法を開発してきました。一方、従来のカプセルは水中で構造を維持できず、内包物を外部刺激によって制御して放出する機能も備えていませんでした。本研究では、近赤外光を吸収する小型の金ナノロッド*3を用い、カプセル表面をポリエチレングリコール(PEG)で架橋することで、200 nm以下のサイズで、水中でも安定な金ナノロッドカプセルを作製しました。DNAなどの水溶性物質の90%以上をカプセル内部に取り込むことができました。また、1,000倍以上の濃縮効果が得られ、DNAの金ナノロッド表面への吸着は10%以下であることから、強い静電相互作用に頼らず水溶性物質を高濃度に内包できることが示されました。さらに、低出力の近赤外LED光を照射することでカプセルを崩壊させ、内包したDNAの約97%を数分以内に放出することに成功しました。
本成果は、強い相互作用によって物質を保持するのではなく、水相の縮小に伴う濃縮と、それにより生じる相分離を利用して水溶性物質を物理的に内包するナノキャリアに、水中安定性と光による放出機能を付与したものです。今後、細胞への取り込みや生体安全性などを検証することで、核酸医薬などを必要な場所で光により放出する新たなドラッグデリバリーシステムへの展開が期待されます。
なお、本研究成果は、2026年9月23日(水)公開のSmall誌にオンライン掲載されました。

溶質濃縮によって生じる相分離を利用し、DNAなどの水溶性物質を1,000倍以上に濃縮して内包する金ナノロッドカプセルを作製した。PEG架橋によって水中でのカプセル構造を安定化するとともに、低出力近赤外LED光によってカプセルを崩壊させ、内包物を効率的に放出することに成功した。
詳細な説明
- 背景
- 研究手法
図1:金ナノロッドカプセルの作製と近赤外光照射によるDNA放出の模式図金ナノロッドをOEGで表面修飾し、相分離を利用してDNAを内包したカプセルを形成した。さらに、PEG架橋と溶媒置換によって水中でカプセル構造を安定化し、近赤外LED光の照射によって内包したDNAを放出した。
- 研究成果

(a)PEG架橋後のカプセルのテトラヒドロフラン(THF)中及び水中での粒径分布。水中への移行後も粒径分布に大きな変化は見られなかった。(b)水中に移したカプセルの透過型電子顕微鏡(TEM)像。PEG架橋により、水中でもカプセル構造が維持されることを確認した。

(a)(i)カプセル内部に取り込ませた球状金ナノ粒子の模式図、(ii)走査型電子顕微鏡(SEM)像、(iii)及びTEM像。カプセル内部への粒子の集積から、1,000倍を超える濃縮効果見積もられた。(b)蛍光測定によるDNA内包量の評価。(i)カプセル形成前のDNA、(ii)カプセルに内包されず有機溶媒中に残ったDNA、(iii)カプセルを水中に移して回収したDNAの蛍光強度。90%以上のDNAがカプセルに内包されたことを確認した。

(a)810 nmの近赤外LED光(120 mW cm-2)を照射した際のDNA放出量の時間変化。照射開始後数分でDNAが急速に放出された。(b)DNA放出量の比較。(i)カプセルに内包されたDNA量、(ii)近赤外光照射後、(iii)45℃での加熱後、(iv)25℃で24時間静置後。近赤外光照射によりDNAの95%以上が放出されたのに対し、加熱のみの場合及び光を照射しない場合の放出は10%以下であった。
- 今後への期待
謝辞
掲載論文は「東北大学2026年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業」により Open Access となっています。
用語説明
*2. 相分離(液-液相分離):
*3. 金ナノロッド:
論文情報
著者名:張冬雨1、谷地赳拓2、海原大輔2、濱口祐2、米倉功治2,3、蟹江澄志2,4、居城邦治5、三友秀之5(1北海道大学大学院生命科学院、2東北大学多元物質科学研究所、3理化学研究所放射光科学研究センター、4東北⼤学国際放射光イノベーション・スマート研究センター、5北海道大学電子科学研究所)
雑誌名:Small(ナノ化学の専門誌)
DOI:10.1002/smll.75754
問い合わせ先
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
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東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
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