Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】核酸を濃縮内包し、近赤外光放出する金ナノカプセルを開発 〜新しい核酸ナノキャリアへの展開に期待〜

2026.9.30

 発表のポイント 

  • 水中で安定な200 nm以下の近赤外光応答性金ナノ粒子カプセルを作製。
  • 相分離を利用して水溶性物質を1,000倍以上に濃縮し、DNAを90%以上の効率で内包。
  • 低出力の近赤外LED光でDNAを迅速に放出。核酸デリバリーへの応用に期待。
 

 概要 

北海道大学電子科学研究所の三友秀之准教授、同大学大学院生命科学院博士後期課程の張 冬雨氏、東北大学多元物質科学研究所の谷地赳拓助教、米倉功治教授(理化学研究所放射光科学研究センターグループディレクター兼務)らの研究グループは、核酸などの水溶性物質を高濃縮して内包し、近赤外光*1の照射によって効率的に放出できる金ナノ粒子カプセルを開発しました。

研究グループはこれまでに、水相中の溶質が濃縮されることで生じる相分離*2を利用して、金ナノ粒子からなる微小なカプセルの内部に水溶性物質を1,000倍以上に濃縮して内包する手法を開発してきました。一方、従来のカプセルは水中で構造を維持できず、内包物を外部刺激によって制御して放出する機能も備えていませんでした。本研究では、近赤外光を吸収する小型の金ナノロッド*3を用い、カプセル表面をポリエチレングリコール(PEG)で架橋することで、200 nm以下のサイズで、水中でも安定な金ナノロッドカプセルを作製しました。DNAなどの水溶性物質の90%以上をカプセル内部に取り込むことができました。また、1,000倍以上の濃縮効果が得られ、DNAの金ナノロッド表面への吸着は10%以下であることから、強い静電相互作用に頼らず水溶性物質を高濃度に内包できることが示されました。さらに、低出力の近赤外LED光を照射することでカプセルを崩壊させ、内包したDNAの約97%を数分以内に放出することに成功しました。

本成果は、強い相互作用によって物質を保持するのではなく、水相の縮小に伴う濃縮と、それにより生じる相分離を利用して水溶性物質を物理的に内包するナノキャリアに、水中安定性と光による放出機能を付与したものです。今後、細胞への取り込みや生体安全性などを検証することで、核酸医薬などを必要な場所で光により放出する新たなドラッグデリバリーシステムへの展開が期待されます。
なお、本研究成果は、2026年9月23日(水)公開のSmall誌にオンライン掲載されました。

溶質濃縮によって生じる相分離を利用し、DNAなどの水溶性物質を1,000倍以上に濃縮して内包する金ナノロッドカプセルを作製した。PEG架橋によって水中でのカプセル構造を安定化するとともに、低出力近赤外LED光によってカプセルを崩壊させ、内包物を効率的に放出することに成功した。

 

 詳細な説明 

  • 背景
 近年、薬剤を標的とする部位に選択的に送達し、副作用を抑えた治療を実現するドラッグデリバリーシステム(DDS)への期待が高まっています。特にDNAやRNAなどの核酸は、多数の負電荷を持つ高分子(ポリアニオン)であり、ナノキャリアに高濃度で保持させることが容易ではありません。そのため、正の電荷を持つ高分子(ポリカチオン)などとの静電相互作用を利用して核酸を保持させる方法が広く用いられています。しかし、強い相互作用によって核酸を保持させると、目的の場所でキャリアから放出する際の妨げとなる可能性があります。そのため、核酸を高濃度で保持しながら、必要なときには効率よく放出できるナノキャリアが求められています。
 研究グループはこれまでに、溶質の濃縮によって生じる相分離を利用して、金ナノ粒子からなる約100~200 nmのカプセル内部に水溶性物質を1,000倍以上に濃縮して内包する手法を開発してきました。しかし、従来のカプセルは水中で構造を維持できず、近赤外光によって内包物を放出することも困難でした。そこで本研究では、水溶性物質を濃縮しながら内包する特徴を維持しながら、水中で構造を維持し、近赤外光に応答して内包物を効率よく放出できるナノカプセルの開発を目指しました。
 
  • 研究手法
 本研究では、近赤外光を吸収する小型の金ナノロッドを作製し、その表面を生体親和性の高いオリゴエチレングリコール(OEG)系分子で被覆しました。これを相分離によって自己組織化させることで、中空カプセルを形成しました。さらに、ポリエチレングリコール(PEG)でカプセル表面を架橋することで、水中でもカプセル構造を維持できるようにしました。モデル分子としてDNAを用い、カプセル形成時に水相が縮小する過程でDNAを濃縮して内包しました。また、近赤外光照射によるカプセル構造の変化とDNAの放出について評価しました(図1)。
図1:金ナノロッドカプセルの作製と近赤外光照射によるDNA放出の模式図
金ナノロッドをOEGで表面修飾し、相分離を利用してDNAを内包したカプセルを形成した。さらに、PEG架橋と溶媒置換によって水中でカプセル構造を安定化し、近赤外LED光の照射によって内包したDNAを放出した。
 
  • 研究成果
 得られた金ナノロッドカプセルは200 nm以下の大きさで、PEG架橋後には水中でも構造を安定に維持することが確認されました(図2)。さらに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)や血清を含む細胞培養液などでも、カプセル構造が維持されました。カプセル形成過程では、水相が縮小することで、水溶性物質がカプセル内部に濃縮されます。カプセル内部に取り込ませた球状の金ナノ粒子を指標として評価したところ、1,000倍を超える濃縮効果が確認されました(図3a)。さらに、DNAの内包量を評価したところ、90%以上がカプセル内部に取り込まれることが確認されました(図3b)。一方、金ナノロッド表面へのDNAの吸着は10%以下にとどまり、強い静電相互作用に頼らず、DNAを高濃度に内包できることが示されました。さらに、DNAを内包したカプセルに低出力の810 nm近赤外LED光を照射すると、カプセル構造が崩壊するとともにDNAが急速に放出され、数分以内に95%以上が放出されました(図4)。一方、45℃で加熱しただけではDNAの放出は10%以下にとどまり、光を照射しない場合の24時間後の漏出も10%以下でした。これにより、DNAの高濃縮での内包、水中でのカプセル構造の安定化、近赤外光による効率的な放出を一つのナノカプセルで実現しました。
図2:PEG架橋による金ナノロッドカプセルの水中での構造安定化
(a)PEG架橋後のカプセルのテトラヒドロフラン(THF)中及び水中での粒径分布。水中への移行後も粒径分布に大きな変化は見られなかった。(b)水中に移したカプセルの透過型電子顕微鏡(TEM)像。PEG架橋により、水中でもカプセル構造が維持されることを確認した。
 
 
図3:金ナノロッドカプセルによる高濃縮内包とDNA内包効率の評価
(a)(i)カプセル内部に取り込ませた球状金ナノ粒子の模式図、(ii)走査型電子顕微鏡(SEM)像、(iii)及びTEM像。カプセル内部への粒子の集積から、1,000倍を超える濃縮効果見積もられた。(b)蛍光測定によるDNA内包量の評価。(i)カプセル形成前のDNA、(ii)カプセルに内包されず有機溶媒中に残ったDNA、(iii)カプセルを水中に移して回収したDNAの蛍光強度。90%以上のDNAがカプセルに内包されたことを確認した。
 
図4:近赤外光照射による金ナノロッドカプセルからのDNA放出
(a)810 nmの近赤外LED光(120 mW cm-2)を照射した際のDNA放出量の時間変化。照射開始後数分でDNAが急速に放出された。(b)DNA放出量の比較。(i)カプセルに内包されたDNA量、(ii)近赤外光照射後、(iii)45℃での加熱後、(iv)25℃で24時間静置後。近赤外光照射によりDNAの95%以上が放出されたのに対し、加熱のみの場合及び光を照射しない場合の放出は10%以下であった。
 
  • 今後への期待
 本研究で開発した金ナノロッドカプセルは、強い静電相互作用に頼らず核酸を高濃度に内包し、近赤外光によって効率的に放出できることが特徴です。今後、細胞への取り込みや生体安全性、細胞内での核酸放出などを検証することで、核酸医薬などを必要な場所まで運び、光によって放出する新たなドラッグデリバリーシステムへの展開が期待されます。
 

 謝辞 

 本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP23KJ0010、JP24K01275、JP25K22884、JP24K03258)、文部科学省「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス」、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)」事業(JPMXP1224HK0048、JPMXP1225HK0045)、日本医療研究開発機構(AMED)「生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)」(JP25ama121006)、北海道大学「Photoexcitonix Project」、東北大学ソフトマテリアル研究センターの支援を受けて実施されました。また、本研究の一部は、文部科学省「国費外国人留学生制度」の支援を受けました。
 掲載論文は「東北大学2026年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業」により Open Access となっています。
 


 用語説明 

*1. 近赤外光:
 可視光よりも波長が長い赤外光のうち、比較的波長の短い光のこと。生体組織を比較的透過しやすいことから、診断や治療などへの利用が研究されている。本研究では波長810 nmの近赤外光を使用した。

*2. 相分離(液-液相分離):
水相と水に混ざり合う有機溶媒を混合する過程で、水相が縮小してクエン酸などの溶質が濃縮されることで、微小な水相が形成される。その界面に金ナノロッドが集積することで、中空のカプセルが形成される。

*3. 金ナノロッド:
棒状の金ナノ粒子のこと。粒子の大きさや形状によって光の吸収特性を制御でき、近赤外光を効率よく吸収する金ナノロッドを作製することができる。本研究では、吸収した近赤外光を熱に変換する性質を利用して、カプセル構造を崩壊させた。
 

 論文情報 

論文名:NIR-Responsive Gold Nanorod Capsules for Efficient Cargo Encapsulation and Release(効率的な内包と放出を可能にする近赤外光応答性金ナノロッドカプセル)
著者名:張冬雨1、谷地赳拓2、海原大輔2、濱口祐2、米倉功治2,3、蟹江澄志2,4、居城邦治5、三友秀之5(1北海道大学大学院生命科学院、2東北大学多元物質科学研究所、3理化学研究所放射光科学研究センター、4東北⼤学国際放射光イノベーション・スマート研究センター、5北海道大学電子科学研究所)
雑誌名:Small(ナノ化学の専門誌)
DOI:10.1002/smll.75754
 
 

 問い合わせ先 

東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp

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〒980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉468−1

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