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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】液体のように振る舞う金ナノ粒子!? 〜表面分子の小さな変化が粒子集団を大きく操る〜

2026.5.07

 発表のポイント 

  • 水面上に配列した金ナノ粒子の集団が、温度や圧縮に応答して液体のように自在に並び変わる現象を見出しました。
  • 表面の有機分子が刺激に応答することで金ナノ粒子の見かけ上の形状を変化させ、それが集団構造の変化を駆動することを明らかにしました。
  • 本成果は、バイオ界面やマイクロ流体デバイスを指向した環境適応型ナノ粒子薄膜材料の設計指針になると期待されます。
 

 概要 

無機ナノ粒子が集まると、その配列の仕方によって光学的・磁気的特性が変化します。したがって、無機ナノ粒子の配列構造を自在に制御できれば、配列に起因した物性の制御にもつながります。

東北大学 多元物質科学研究所の佐藤梨奈 大学院生(研究当時: 同大学院環境科学研究科、現: 物質・材料研究機構 ICYS研究員)、同大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センターの蟹江澄志教授らの研究チームは、金ナノ粒子表面に結合させた有機分子の温度や圧縮に応答したわずかな変化を観測し、それが粒子集団全体の並び方を変えるという、新たなナノ粒子配列メカニズムを明らかにしました。 本研究チームは、温度応答性分子を含む2種類の有機分子で表面を修飾した金ナノ粒子を空気/水界面に展開し、温度上昇や圧縮に伴って、島状、鎖状、網目状へと配列が柔軟に組み変わる液体様挙動を見出しました。さらに、表面の2種類の有機分子がナノ粒子上で自発的に再配置し、粒子形状に見かけ上の異方性(注1)を生むことで、集団全体の配列変化を駆動することを明らかにしました。

本成果は、分子レベルのごく小さな変化を起点として、ナノ粒子集団の配列を動的に制御できることを示したものであり、今後は外部環境に適応可能なスマート表面として、バイオ・医療分野やマイクロ流体デバイスへの応用が期待されます。

本研究成果は、2026年5月1日付(現地時間)で学術誌Journal of the American Chemical Societyに掲載されました。

 

 詳細な説明 

  • 研究の背景
 無機ナノ粒子が集まると、その配列の仕方によってさまざまな光学的・電子的・磁気的特性を示します。したがって、ナノ粒子の並び方をデザインできれば、その配列構造に起因した物性までも自在に制御することが可能になります。特に、外部刺激に応じて配列構造を変化させることができれば、粒子集団としての性質を動的に切り替える新しい材料設計につながります。こうした観点から、温度やpH、光などに応答する有機分子をナノ粒子表面に導入し、自己組織化(注2)を制御する研究が進められてきました。
 一方で、溶媒のない乾燥環境では有機分子は動きにくく、刺激応答による配列変化にはしばしば100 °Cを超える高温が必要とされてきました。そこでナノ粒子配列の場として、水面上、すなわち空気/水界面に着目すると、ナノ粒子は疎水的な表面分子によって界面に固定され、自発的に二次元配列を形成します。また、乾燥状態と比較して空気/水界面では有機分子の自由度が高く、比較的低温での刺激応答が期待されます。それでも、ナノ粒子同士の凝集を防ぎつつ配列を変化させることは容易ではなく、さらに、配列制御の鍵を握る表面分子が界面でどのように振る舞うのかは十分に解明されていませんでした。
 
  • 今回の取り組み
 本研究チームは、温度応答性をもつ樹状液晶分子、「デンドロン」と、単純な鎖状有機分子の2種類で表面を修飾した金ナノ粒子を作製し、それらの空気/水界面における温度と圧縮に対する応答を詳細に調べました。
 その結果、金ナノ粒子集団は、室温付近では島状に集まる一方で、温度上昇に伴い、鎖状を経て40 °C付近でより広がった網目状へと、まるで液体のように大きく並び変わることが分かりました。また、加熱後に圧縮を加えると、網目状の構造が再び島状へと移行することも確認されました。
 さらに、ドイツ・ハンブルクの放射光施設であるドイツ電子シンクロトロン (DESY)などを用いたX線測定により、この構造変化の起源と表面有機分子の役割を解析しました。
 その結果、2種類の有機分子が刺激に応じてナノ粒子表面で自発的に再配置し、粒子の見かけ上の形状異方性を変化させることで、集団全体の配列変化を駆動していることを明らかにしました(図1)。具体的には、室温では粒子は横方向にほぼ対称的な形状をとるため、方向性を持たない島状配列を形成しますが、温度が上昇するとデンドロン分子の再配置によって粒子形状に異方性が生じ、界面での粒子配列も方向性を持つ網目状構造へと変化したことがわかりました。
 
  • 今後の展開
 本研究では、粒子表面における有機分子の自発的な再配置挙動を追跡し、表面分子が粒子の見かけ上の形状異方性を変えることで、粒子配列全体の大きな変化を駆動することを初めて明らかにしました。本成果は、分子レベルのごく小さな変化を起点として、ナノ粒子集団の配列や空隙構造を動的に制御できることを示したものであり、刺激応答性界面材料の新しい設計指針を与えるものです。特に、温度によって密な構造と空隙の多い構造を切り替えられることから、物質の透過性や界面機能を環境に応じて制御する“スマート表面”への展開が期待されます。さらに、40°C前後の生体近傍温度域で配列が変化することから、腫瘍部位など局所的に温度の異なる環境を利用した薬物送達技術への応用可能性も考えられます。今後は、温度だけでなく、pHやイオン強度など他の刺激にも応答する分子設計へと発展させることで、より高度な機能を持つ適応型ナノ粒子薄膜の創製が可能になると考えられます。こうした材料は、バイオ・医療分野における界面制御材料や、流体の挙動を精密に制御するマイクロ流体デバイスなど、周囲の環境に応じて機能を変える先進材料としての応用が期待されます。
 
 
金ナノ粒子表面での有機分子の再分布による粒子形状異方性の変化と島状から網目状への粒子配列構造の変化。
 
 

 謝辞 

 本研究は東北大学多元物質科学研究所の佐藤梨奈博士課程学生(当時)、同大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの蟹江澄志教授、ダルムシュタット工科大学のEmanuel Schneck教授らの共同研究により遂行されました。
本研究は科研費 基盤研究 A(JP19H00845、JP25H00889)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2114)の支援を受けたものです。掲載論文は「東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受けOpen Accessとなっています。(DOI: 10.1021/jacs.5c22437)
 


 用語説明 

注1. 異方性:
形や性質がすべての方向で同じではなく、特定の方向に違いまたは偏りをもつこと。

注2. 自己組織化:
分子や粒子が外部から細かく並べられなくても、相互作用によって自発的に集合し、規則的な配列や構造を形成すること。
 
 

 論文情報 

タイトル:Temperature- and Pressure-Induced Ligand Anisotropy Drives Structural Reorganization of Dendronized Gold Nanoparticle Monolayers
著者:Rina Sato*, Joshua Reed, Emanuel Schneck*, Kiyoshi Kanie*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 大学院生 佐藤 梨奈、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授 蟹江 澄志、ダルムシュタット工科大学 教授 Emanuel Schneck
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.5c22437
 
 
 

 問い合わせ先 

【研究に関すること】

東北大学 多元物質科学研究所
大学院生 佐藤 梨奈(さとう りな)
TEL: 022-217-5615
E-mail:rina.sato.s5*dc.tohoku.ac.jp

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
教授  蟹江 澄志(かにえ きよし)
TEL: 022-217-5613
Email: kanie*tohoku.ac.jp
 

【報道に関すること】

東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
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