研究成果・プレスリリース
【プレスリリース】次世代形状記憶合金の相変態機構を解明 ~形状回復とエネルギー吸収性能を活かした応用に期待~
2025.5.16
発表のポイント
- 良好な超弾性(注1)と大きなエネルギー吸収性能(注2)を示す銅(Cu)-アルミニウム(Al)-マンガン(Mn)系形状記憶合金(注3)(以下、Cu-Al-Mn系形状記憶合金)の相変態(結晶構造の変化)メカニズムを電子顕微鏡と放射光X線回折による解析を通じて明らかにしました。
- 力を負荷した際に生じる多段階の相変態を明らかにするとともに、多段階の相変態が進行するとエネルギー吸収量が増大することを実証しました。
概要
次世代の形状記憶合金として期待されるCu-Al-Mn系形状記憶合金は、原料が安価で加工しやすく、良好な超弾性を発現することから、耐震用構造材料や医療用デバイスなど幅広い分野での応用が期待されています。近年、この合金を単結晶化すると大きな形状回復を示すことが報告されていましたが、そのメカニズムは明らかとなっていませんでした。
長崎大学大学院総合生産科学研究科の赤嶺大志准教授(前九州大学大学院総合理工学研究院 助教)と、九州大学大学院総合理工学府修士2年の高松凌氏(研究当時。現株式会社デンソー)、九州大学の西田稔名誉教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の許勝助教、東北大学大学院工学研究科の大森俊洋教授、貝沼亮介教授、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの二宮翔助教、西堀麻衣子教授、株式会社古河テクノマテリアル(神奈川県平塚市、花谷健社長)の喜瀬純男博士らの共同研究グループは、電子顕微鏡観察と放射光X線回折測定を通じて、単結晶Cu-Al-Mn合金では多段階のマルテンサイト変態(注4)が生じていることを明らかにしました。また、この多段階のマルテンサイト変態が進行すると、相変態に伴うエネルギー吸収量が増大することがわかりました。
本研究の成果は、相変態の制御を通じてCu-Al-Mn系形状記憶合金のエネルギー吸収性能を自在に制御できる可能性を示すもので、制振材料や耐震用の土木・建築用材料等への幅広い応用が期待されます。
この成果は、2025年4月15日(米国時間)に材料科学分野の専門誌Acta Materialia誌にオンライン公開されました。
長崎大学大学院総合生産科学研究科の赤嶺大志准教授(前九州大学大学院総合理工学研究院 助教)と、九州大学大学院総合理工学府修士2年の高松凌氏(研究当時。現株式会社デンソー)、九州大学の西田稔名誉教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の許勝助教、東北大学大学院工学研究科の大森俊洋教授、貝沼亮介教授、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの二宮翔助教、西堀麻衣子教授、株式会社古河テクノマテリアル(神奈川県平塚市、花谷健社長)の喜瀬純男博士らの共同研究グループは、電子顕微鏡観察と放射光X線回折測定を通じて、単結晶Cu-Al-Mn合金では多段階のマルテンサイト変態(注4)が生じていることを明らかにしました。また、この多段階のマルテンサイト変態が進行すると、相変態に伴うエネルギー吸収量が増大することがわかりました。
本研究の成果は、相変態の制御を通じてCu-Al-Mn系形状記憶合金のエネルギー吸収性能を自在に制御できる可能性を示すもので、制振材料や耐震用の土木・建築用材料等への幅広い応用が期待されます。
この成果は、2025年4月15日(米国時間)に材料科学分野の専門誌Acta Materialia誌にオンライン公開されました。
詳細な説明
Cu-Al-Mn系形状記憶合金は、原料が安価で加工しやすく、良好な超弾性を発現することから、現在最も代表的な形状記憶合金であるTi-Ni合金に代わる次世代の形状記憶合金の1つとして注目されています。粒界で割れてしまうことが課題でしたが、低コスト単結晶化技術(注5)の開発により単結晶での実用化が可能となり研究が活発化しています。近年、単結晶化して特定の結晶方位に沿って引っ張ると大きな形状回復が得られることが発見されていましたが、そのメカニズムは明らかとなっていませんでした。
長崎大学の赤嶺大志准教授、九州大学、東北大学、株式会社古河テクノマテリアルの共同研究グループは、電子顕微鏡観察と放射光X線回折測定を通じて、単結晶Cu-Al-Mn合金では多段階のマルテンサイト変態が生じていることを初めて明らかにしました(図1)。
図1は透過型電子顕微鏡観察の結果を示しています。元の構造(L21)が応力の負荷によって18R(6M)型構造、6R(2M)型構造へと変化していることを原子スケールの直接観察により明らかにしました。また、放射光X線回折によっても同様の構造変化の観測に成功し、図1で観察された構造変化が応力下でも生じていることを実証しました。
長崎大学の赤嶺大志准教授、九州大学、東北大学、株式会社古河テクノマテリアルの共同研究グループは、電子顕微鏡観察と放射光X線回折測定を通じて、単結晶Cu-Al-Mn合金では多段階のマルテンサイト変態が生じていることを初めて明らかにしました(図1)。
図1は透過型電子顕微鏡観察の結果を示しています。元の構造(L21)が応力の負荷によって18R(6M)型構造、6R(2M)型構造へと変化していることを原子スケールの直接観察により明らかにしました。また、放射光X線回折によっても同様の構造変化の観測に成功し、図1で観察された構造変化が応力下でも生じていることを実証しました。

図1. 透過電子顕微鏡による結晶構造変化の観察結果
(a, b) 6M(18R)構造および2M(6R)構造から取得した電子回折図形
(c, d) 6M(18R)構造および2M(6R)構造の原子分解能像
(a, b) 6M(18R)構造および2M(6R)構造から取得した電子回折図形
(c, d) 6M(18R)構造および2M(6R)構造の原子分解能像
また、2段階目の相変態(6M→2M)が進行すると応力-ひずみ線図のループが大きくなり、エネルギー吸収量が増大することがわかりました(図2)。エネルギー吸収量が大きな材料は、振動吸収などの効果が期待できるため、耐震用建築材料としての応用が期待できます。また、本合金は超弾性を示し、10%以上の変形が加えられた場合でも形状回復可能なので、構造物の倒壊回避も期待できます。

図2.
(a) 少しずつひずみ量を増やしながら繰り返し測定した応力-ひずみ特性線図。
約11%まで1段階目の相変態(L21→6M)、その後2段階目の相変態(6M→2M)が生じる。
(b) 応力-ひずみ線図から算出したエネルギー吸収量(青線)。
2段階目の相変態が生じている12%以上で吸収エネルギーが急激に増大している。
謝辞
本研究はJSPS 科学研究費助成事業(19H00829, 23K13540, 23H00231, 23H00206)の支援を受けて行われました。放射光X線回折測定は大型放射光施設SPring-8(課題番号 2020A1197, 2021B1270, 2021B3740)において実施されました。本論文は長崎大学のAPC支援事業の支援を受けてオープンアクセスとなっています。
用語説明
注1 超弾性:
結晶構造変化を通じて物体が変形し、力を取り除くと元の形に戻る性質。熱を加えて元に戻る形状記憶効果とは異なり、室温で元の形状に戻ることができるのが特徴。
注2 エネルギー吸収性能:
材料に力を加えると、一部のエネルギーは材料内で内部摩擦や発熱等によって失われ、材料の変形に寄与しない。このエネルギーを吸収エネルギー(散逸エネルギー)と呼び、吸収エネルギーが大きい材料は優れた振動吸収等の効果を発揮する。
注3 Cu-Al-Mn系形状記憶合金:
東北大学 石田清仁名誉教授、貝沼亮介教授、須藤裕司教授、大森俊洋教授らグループによって開発(Kainuma et al. 1996, Sutou et al. 2008)。
注4 マルテンサイト変態:
原子の拡散を伴うことなく、結合を保った原子が集団的に変位する形で進行する相変態。無拡散相変態、変位型相変態とも呼ばれる。
注5 低コスト単結晶化技術:
大型の単結晶育成装置を用いずにサイクル熱処理によって単結晶を得る技術。東北大学研究グループ、京都大学 荒木慶一教授(前 名古屋大学)、株式会社古河テクノマテリアルら共同研究によって開発(Omori et al. 2013, Kusama et al. 2017)。
論文情報
タイトル: Successive stress-induced phase transformations with large stress-strain hysteresis in single crystal Cu-Al-Mn shape memory alloys
著者: Hiroshi Akamine, Ryo Takamatsu, Sheng Xu, Toshihiro Omori, Ryosuke Kainuma, Sumio Kise, Kakeru Ninomiya, Maiko Nishibori, Minoru Nishida
掲載誌: Acta Materialia
DOI: 10.1016/j.actamat.2025.121054
URL: https://doi.org/10.1016/j.actamat.2025.121054
著者: Hiroshi Akamine, Ryo Takamatsu, Sheng Xu, Toshihiro Omori, Ryosuke Kainuma, Sumio Kise, Kakeru Ninomiya, Maiko Nishibori, Minoru Nishida
掲載誌: Acta Materialia
DOI: 10.1016/j.actamat.2025.121054
URL: https://doi.org/10.1016/j.actamat.2025.121054
関連リンク
問い合わせ先
【研究に関すること】
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
(兼)多元物質科学研究所
教授 西堀 麻衣子
Email: maiko.nishibori.d8*tohoku.ac.jp
(兼)多元物質科学研究所
教授 西堀 麻衣子
Email: maiko.nishibori.d8*tohoku.ac.jp
【報道に関すること】
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 総務係
TEL: 022-752-2331
Email: sris-soumu*grp.tohoku.ac.jp
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